教育移住のリアル Vol.1|松平珠美さん(北海道豊浦町)

海と山、湖、そして火山に囲まれた北海道・豊浦町。

ここにある北海道シュタイナー学園 いずみの学校には、シュタイナー教育と、子どもが豊かに育つ環境を求め、全国各地からご家族で移住してくる方がいます。

なぜ、住む場所やライフスタイルを変えてまで、この教育を選んだのでしょうか。

この連載では、実際に教育移住を経験されたご家族にお話を伺い、移住を決めた理由、子どもの変化、そして北海道で始まった新しい暮らしをご紹介します。

第1回は、横浜から北海道豊浦町へ移住して4年目の松平珠美さんご家族です。


「決め手は自然と共に暮らせること」

「小学校は絶対シュタイナーに入れるって決めていました。」

そう話す松平さんとシュタイナー教育との出会いは、息子さんが生後5か月の頃でした。

横浜で親子クラスに通い、その後シュタイナー園へ。手仕事サークルで学び、シュタイナー教育に惹かれていった松平さんが当初考えていたのは、関東圏のシュタイナー学校でした。

そんな松平さん一家の転機となったのが、ご主人の実家が北海道に所有していた土地でした。

「土地を処分する前に、一度見に行こうか、という話になったんです。」

その訪問にあわせて、北海道シュタイナー学園を訪れ、「この環境はすごい!やりたい暮らしができるかもしれない」と直感されたそうです。

自然の中で暮らすこと、自分たちの手で暮らしをつくること。

横浜でも共同で田んぼづくりを楽しんでいた松平一家にとって、それは、もともと大切にしていた価値観でした。福祉関係のお仕事をされていたご主人が、豊浦近辺でお仕事を探し、家族揃って移住しました。

「ここは本当に環境が素晴らしくて、こどもを育てる環境としても、自分たちがどう暮らしたいかということから考えても、シュタイナー学校がある豊浦は魅力がありました」


「来て1か月で、夢が一つ叶いました」

移住後の暮らしについて聞くと、松平さんは楽しそうに話します。

「来てすごくワクワクして。1か月目で、ひよこを卵から育てて、産ませるところまでいったんです。」

以前から、「全部ではなくても、自給自足に近い暮らしをしたい」と思っていました。

水田は借りられませんでしたが、広い畑を借り、車で通いながら陸稲づくりにも挑戦しました。

「すごく育って、『やった!』って思ったんです。」

ところが、収穫直前。

「鹿に全部食べられちゃって(笑)。夫も子どもも、本当にがっかりして。」

思い通りにならないことも含めて、自然の中で暮らすということ。

今は、その畑はニンニクなど鹿に食べられないものを育てることにして、鹿に食べられそうなものは庭にうつしました。


「予算内で、できることを楽しむ」

不動産会社ではなかなか見つからず、空き家バンクで見つけた、学校へ徒歩で通える庭付きの一軒家を購入しました。

「軽くリフォームすれば住めるかなと思ったら、想像以上に手がかかることが分かって(笑)」

本当はフルリフォームをしたかったものの、予算内では部分的な改修に。

それでも、松平さんは自分たちらしい家づくりを楽しみました。

「調湿効果があって、喘息にもいいと言われている自然素材の壁材を、自分たちで壁に塗ったんです。」

完成されたものを選ぶのではなく、暮らしながら少しずつ育てていく。

そんな移住生活が始まりました。


「孫ですか?っていうくらい可愛がってくれて」

移住して大変な時期を支えてくれたのは、豊浦の人たちでした。

「ご近所さんが、自分の孫のように、息子を可愛がってくれるんです」

畑で採れたイチゴができると、たくさん持ってきてくれたり。
地域の方々とのつながりが、家族の安心につながっていきました。

一度横浜へ帰省し、豊浦に戻ってきた時、松平さんはある違いに気づいたそうです。

「横浜って、夜も照明ですごく明るいんですよね。豊浦は夕方になるともう真っ暗で。でも、それがすごく落ち着くんです」

都会では当たり前だった明るさが、豊浦では自然のリズムに変わっていました。

「この落ち着いた環境が、もう自分の第二の故郷みたいに感じています。」

夜は暗い。 だからこそ、家族の生活リズムも自然と整っていく。

それも、移住して気づいた大きな変化でした。


「校庭から、クロスカントリースキーが始まるんです」

冬の暮らしにも、息子さんはすぐに馴染んでいきました。

「お金をかけなくても、遠くに行かなくても、どこでも遊べるっていうのはすごいなと思います。」

学校の授業では、歩くスキー(クロスカントリー)は、なんと校庭からスタートします。

また、学校から歩いて行ける場所にもスキー場もあり、地域のクロスカントリーの集いには松平さんも一緒に親子で参加しています。

そこでは、地域の方たちが、子どもたちを温かく受け入れてくれています。

「『今日はここのコースがいいかな』『ここはジャリジャリしているから、こっちにしよう』って、事前に見てくれているんです。本当にありがたいです。」

ゲレンデスキーのように大きな費用がかからず、30分ほどでも楽しめるクロスカントリー。

「体力もつくし、本当に最高なんです。」

冬は雪遊び。
夏は湖や川、海へ。

季節ごとに自然そのものが遊び場になります。


「海も山も川も湖も火山も、車で20分」

夏の楽しみは、洞爺湖での水遊び。

「入学したての夏に、お友達が『湖でSUPやろう』って誘ってくれて。そんなことできるんだって驚きました。」

4年目の今年はSUPを買ったので、夏が楽しみです。

「ここからは海にも山にも川にも車で数分、洞爺湖や有珠山にも、車で20分くらいで行ける。これだけのバラエティに富んだ環境に簡単にアクセスできるのは、ものすごく恵まれています。」

学校の学びも、自然とつながっています。

いずみの学校には、1年生から始まる青空教室、また高学年からは本格的なアウトドアの授業があり、どんな天気の中でもアウトドアで過ごします。自然が特別なイベントではなく、日々の暮らしや学びの中にある。

それが豊浦での子育ての魅力です。


「12年間、子どもたちの成長を見守れる環境」

いずみの学校には、高等部まで続く12年間の学びがあります。幼児部から入れると15年もの長期一貫教育です。

移住を考える時、長い時間を同じ環境で子どもの成長を見守れる暖かさも、大きな魅力の一つでした。

日常の中で、高等部の生徒たちの姿を見ることができることも、松平さんにとって印象的だったといいます。

「1年生の頃から、子ども同士だけじゃなくて、親にも挨拶してくれるんです。それがすごいなって思いました。」

小さい子に自然に優しく接する上級生の姿。

その姿を見ていると、

「こんな風に育っていくのかなって思うんです。」

と感じるそうです。

上級生が身近にいることで、子どもたちは少し先の自分の姿を自然に思い描くことができます。

学年を超えた関わりの中で、子ども同士が育ち合っていく。

それが、園から高等部まで一貫教育の、いずみの学校ならではの魅力です。


「一緒に学んでいくつながり」

そして、子どもたちの成長を支えているもう一つの大きな力が、保護者も共に学び続けられる環境です。

松平さんは現在、高等部の合唱講師による合唱サークルや、アントロポゾフィを学ぶ会にも参加しています。

「保護者も学ぶ機会がたくさんあるのが、いずみの学校の魅力の一つだと思います。」

学年やクラスを超えて集い、一緒に学び、語り合う時間の中で、自然とつながりも育まれていきます。

「みんなが、この学校を本当に愛しているんだなって感じます。」

子育てでしんどい時や、人生の中で悲しいこと、苦しいことがあった時も、思いを共有できる仲間がいる。

「そういう深い関係性を持てることが、すごく嬉しいです。」

そして最後に、松平さんはこう話してくれました。

「一緒に何かをするって、本当に大事なんだと思います。委員会もそうだし、学ぶ機会もそう。いろんな活動を一緒にできる環境があることが、いずみの学校の魅力の一つだと思います。」


「不安に思うより、飛び込んじゃうといい」

最後に、これから移住や入園を考えるご家族へ、松平さんからメッセージをいただきました。

「もちろん不安に思うことはあると思うんです。でも、来てみたら良いところが本当にたくさんあります。不安に思うより、飛び込んじゃうといいのかなって思います。」

そして、今の暮らしの中で一番幸せを感じる瞬間を尋ねると、こんな答えが返ってきました。

「家から見える豊浦の海の夕日です。毎日違うグラデーションで、真っ赤になる日もあるんです。」

「今日はこんな色だね、って家族で話せる。そういう景色を毎日見られることが、本当に幸せです。」

教育移住とは、単に学校を選ぶことではありません。

どんな場所で、どんな時間を家族で過ごしたいのか。

どんな人たちと、どんな関係を育んでいきたいのか。

松平さん一家の豊浦での暮らしは、「教育」と「暮らし」は切り離せないものだということを、静かに教えてくれます。

※個人の体験・感想であり、学校としての見解ではありません

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