前編では、シュタイナー教育を求めて北海道・洞爺湖町へ移住した森山真実子さんご家族に、移住を決めるまでの経緯と、子どもたちに起きた変化についてお伺いしました。
後編では、移住準備で最も苦労したという住まい探しの実際、北海道ならではの自然環境、暮らしの中で感じた変化、そして学校を中心とした保護者コミュニティとの関わりについてお届けします。

「自然の中で育つ、子どもたちの日常」
■ 移住準備で最大の壁だった、住まい探し
移住準備で最も苦労したのは、住まい探しだったと森山さんは振り返ります。
最初は役場で空き家バンクを紹介してもらいましたが、思うようには進みませんでした。
「電話をしても持ち主の方と連絡が取れないことが多くて。高齢の方が施設に入られると、そのまま連絡がつかなくなってしまうケースもあるそうなんです」
そこで不動産会社にも相談しながら、夫が何度も北海道へ足を運び、内見を重ねました。しかし、すぐに住めるファミリー向けの賃貸は非常に少なく、条件に合う物件を見つけるのは簡単ではなかったといいます。
現在の住まいは、賃貸の3LDKのアパート。物件が出た時にはすぐに埋まりそうだったため、早めに決断したそうです。
駅から徒歩15分ほど。学校までは電車で1駅、乗車時間は数分ですが、電車の本数は1日に5本ほど。
「でも学校という生活の中心があるので、それに合わせて動くリズムには自然と慣れました」
年齢的に下の子は車で送迎し、上の子は電車で通学しています。
将来的に家を購入することも視野に入れていますが、まずは賃貸で暮らしながら地域を知ることを選びました。
「冬を一度経験してみないと、本当の暮らしはわからないと思うんです。同じ『駅から徒歩15分』でも、雪がどのくらい積もるのか、除雪が入る道路なのかで全然違いそうですから」
森山さん一家が北海道で暮らし始めたのは4月。
「私たちは、まだ一番いい季節しか過ごしていないんですよ」と笑います。
移住してまず感動したのは、春の風景でした。
「桜も桃も梅も、一斉に咲くんです。それが本当にきれいで感動しました」
目の前には広い海と空があり、山があり、火山があり、湖や川もある。北海道ならではの雄大な自然が、子どもたちの日常になりました。
熊が生息する地域でもありますが、不安はあまり感じていないそうです。
「ちゃんと住み分けがあって、私たちが立ち入るべきではない場所に入らなければ、お互いに危害を加えることはありません。今は豊かさしか感じていないですね」
学校では、カヌーや冬には歩くスキーなど、自然を生かした学びも予定されているそうで、とても楽しみにしているといいます。
丘の上に立つ校舎も直角のない、少し不思議な形をしていて、教室の窓から湖が見えるように設計されているのだとか。
近所のお年寄りにも可愛がっていただき、野菜をもらったり、お礼に手作りのシソジュースや子どもが作った手編みの品を贈ったり。
そんな世代を超えた交流も、日常の中で自然に生まれています。
「車社会で見つけた、新しい暮らしのリズム」
もうひとつ、大きく変わったのが運転との向き合い方です。
もともと海外生活が長く、日本の運転免許を持っていなかった森山さん。
「郊外に移住することになるだろうから」と、子どもが小さいうちに免許を取得しました。
東京にいた頃は車を持つ必要がなかったため、運転経験はほぼゼロ。
「今も手に汗握りながら運転しています」
と笑いますが、いざという時も車で10分あれば送り迎えができるとわかったことは、実体験としてとても心強かったそうです。
「ここでは車は必需品。運転してこなかった人ほど、冬に向けて自分のキャパシティがどのくらいか、実際に体験してみないとわからないと思います」
「学校を中心に広がる、人とのつながり」
北海道での人とのつながり方は、東京とは少し違うと感じているそうです。
「車社会なので、住んでいる場所がそれぞれ離れているんです。学校という拠点がなければ、自然に知り合うというのは意外と難しくて、地域の活動に参加しないと接点を持ちにくい地域性はあると思います」
一方で、学校を中心としたコミュニティには、対話のしやすさを感じています。
「学校を中心に人が集まるので、相談したり話し合ったりすることは、とてもしやすいですね」
ただ、子どもの学年によって、親同士が関わる機会には違いもあります。
「2年生は親が学校への送迎をすることになっているので日々の接点も多いのですが、4年生になると送迎が必須ではなくなるため、意識して行事などに参加しない限り、親同士で話す機会はあまりなくなりますね。だからこそ高学年になるほど、保護者が集まる必要な場にはきちんと参加して顔を合わせることが大切だと感じています。
その一方で、委員会活動をはじめ、学校を支えるNPOの活動などを通して、幼児部から高等部、卒業生や地域の学校を応援してくれる方々まで、親や大人同士で関わる場面はたくさんあります。そうした活動を通じて『コミュニティ』の輪が広がり、深まっていくのも面白さだと感じています」
また、そんないずみの学校コミュニティの柔軟な姿勢を感じる出来事もありました。
「うちは私がフルリモート・フルタイムで働く会社員の共働き家庭で、いずみの学校に在籍する低学年の家庭では少し珍しいと思うんです。長期休みの過ごし方に課題があって担任の先生に相談したところ、『これから同じような家庭も増えるかもしれない』という視点で、学童のような選択肢について議題に上げてくださると仰っていただいたんです」
「新しく来た家庭だから既存の環境に合わせるべき、というような扱いは全くなくて、むしろ積極的に声を拾い上げようとしてくださっている。その姿勢がとてもありがたかったですね」
教育移住を考えている方へ
■ 家族として何を大切にするのかを見つめ直す機会に
田舎暮らしの経験がない家庭には、まず数日~1ヶ月ほどの体験滞在をおすすめしたいそうです。
「でも、大丈夫だなと思える人は、体験なしに来てしまってもいいと思いますよ」
森山さん自身も、学校説明会への参加と、面接を兼ねた1週間ほどの滞在、合わせて2回の訪問だけで移住を決めました。
「仕事のことなど、考えることは多いと思いますが、大人だからこそできる工夫もあります。今ある生活の延長で考えるだけじゃなくて、家族として何を大切にしたいのかを、一度見つめ直す機会にしてもらえたらいいなと思います」
移住から4ヶ月。
姉と弟が同じ学びの場で過ごすという願いをかなえながら、森山さんご家族は北海道での新しい暮らしと、家族にとって大切な時間を少しずつ育てています。
▶︎前編はこちら
※個人の体験・感想であり、学校としての見解ではありません